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once 16 流れ星のピアス

***16***

出口を抜けると、辺りはすっかり暗くなっていた。有芯の隣を歩きながら、朝子は無表情で、もう何も言わなかった。

「無口になったなぁ。もう怒るのやめたのか?」

「・・・・・」

「何か言えば?」

朝子は前を向いたまま言った。「・・・・・あんた、沈黙苦手な人?」

「苦手じゃないよ、心が通じ合っていればな。気まずい沈黙は、誰だって嫌だと思うけどなぁ」

「自分で招いたんだから、諦めて耐えるのね。・・・・・」

有芯は首の後ろで手を組み、朝子の顔を覗き込みながら言った。「・・・嫌だなぁ~この間。何も喋らないならキスしようかな~」

しかし朝子は、歩きながらちらりと有芯を睨んだだけだった。

無事駐車場に着くと、二人は車に乗り込んだ。

「先輩、泊まってるのどこ? 送ってくから」

「・・・Aホテル・・・」

「ビジネスホテルに泊まってるのか?! 旅行なのに?」

「・・・一人で4泊するんだから、そっちの方が経済的でしょ」

「そりゃそうだけどさ。優雅じゃねえなぁ」

「放っといて・・・」

有芯は夜の高速を飛ばした。朝子は窓の外を見たまま、何も話さず、ぴくりとも動かなかった。二人とも無言のまま、無機質な塀の続く風景が規則的に流れていく。

「・・・あのさ、先輩。ビジネスホテルじゃ食事出ないんだろうから、どこかメシ行こうか?」

朝子の返事はない。

「寝ちゃったか? おーい、先輩!?」

彼女は微動だにしない。

有芯はためしに、「返事をしないならこのままラブホテルに行きますよ~?」と言ってみたが、それでも返答がないので、寝てるんだな、と思った。

「参ったな、どこ行こうかなぁ~」先輩が寝てるから、どこに行きたいか聞けない。失敗のなさそうな場所にしよう・・・。

有芯は一度行ったことのあるジャズバーを選択し、車を停めた。

彼は、朝子の肩をとんとんと叩いてみた。しかし、動く気配すらしない。彼は彼女の耳元で、大きな声で言った。

「先輩、着いたよ。先輩~? 朝子せ・ん・ぱ・い・・・」

その時、朝子が有芯の方を向き、うっすら目を開けた。薄暗い車の中で、至近距離にある彼女の唇はうっすら開き、夜露に濡れた花のように妖しく光っている。

「ん・・・」

有芯の心臓が大きな音で鳴った。やめろよ俺。別に俺は誘惑されてなんかいない。先輩を弄んで喜んでいるだけだ・・・。

「着いた? ホテル・・・」

ラブホテルのことを言われたのかと思った有芯は、一瞬後に思い違いに気付くと、慌てて言った。「い、やぁ、メシまだだから、食べようと思って・・・ホテルじゃなくてジャズバーに来たんだけど・・・」

無事に言い終えると、有芯はほっとした。

「そっか。そうだね、おなかすいた・・・あ、ピアス片方、なくなってる・・・」

「え?」

朝子の耳には銀色の流れ星のようなピアスが光っていたが、確かに今は片耳だけだ。

「車に乗ったときには確かにあったんだけど・・・有芯、後ろ探してくれる? 私、この辺探すから」

「わかった・・・」

有芯は後部座席の周辺を探したが、それらしいものは見当たらなかった。

「先輩、あった?」

「ない~」

「困ったなぁ」

そう言って体を少し起こすと、何かが頭に当たった気がして、有芯は車の天井を見た。そこには、朝子の探しているチェーンのピアスが引っかかっている。

「あったぜ先輩。・・・ったく、どうやったらこんなところに引っかかるんだ?!」

言いながら、座席に腰掛け、天井のピアスを外そうとした瞬間、朝子の指が肩に伸びてきて、有芯は後部座席に横たわった。


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